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災害時の外国人被災者のための「やさしい日本語」

あべ やすし 2010 「識字のユニバーサルデザイン」かどや ひでのり/あべ やすし編『識字の社会言語学』生活書院、384-342


 うえの論文で「災害時の外国人被災者のための「やさしい日本語」」を 紹介しましたので、その部分を はりつけます。後半では、ろう者を対象とした「筆談のポイント」も紹介しています。参考になればと おもいます。
 文章のなかにも ありますが、そのひとが よく わかる言語で情報提供するのが いちばん いいです。それが できないときに、わかりやすい日本語で つたえようということです。

6-3 「やさしい日本語」


 日常の生活に密着する情報は公共性がたかい。そうした情報は、みんなにとどけられる必要がある。なかでも災害時における情報は緊急性もたかく、きちんと検討しておく必要がある。
 おおきな災害がおきたとき、「どこで、なにがおきているのか」「どこに避難すればいいか」「いつ救助や支援がくるのか」「家族や知人の状況」などがわからなければ、おおきな不安におそわれる。生命にかかわる問題である。このような非常事態に、どのように情報をとどければよいのか。たとえば、日本語を第一言語としないひとにとっては、むずかしい日本語で情報が提供されてもほとんど理解できないかもしれない。もちろん、多言語で情報提供するのが理想である。しかし災害の発生直後からそのような対応ができるとはかぎらない。日本語学習者であれば、表現を工夫すれば理解しやすくできるかもしれない。
 そのような視点から災害時に「やさしい日本語」で情報を提供しようというとりくみがある。さとう かずゆき(佐藤和之)は、つぎのように説明している。

 「やさしい日本語」は、災害が起きたときに「やさしい日本語」を使った音声で、日本語に不慣れな外国人を安全な場所に誘導し、それぞれの母語による生活支援が始まるまでの、避難生活で必要になる情報を「やさしい日本語」で書いた掲示物で伝えようと考え出された、災害時の外国人被災者のための日本語のことである(さとう2009:181)。

 さとうによれば、「やさしい日本語」では「安全」は「だいじょうぶ」、「危険」は「危ない」、「避難所」は「逃げるところ」といいかえる(同上:182)。さとうは「やさしい日本語」の規則をつぎのように説明している。

(1) 難しいことばを避け、簡単な語彙を使う
(2) 一文を短くして分かち書きにし、文の構造を簡単にする
(3) 災害時によく使われることばや知っておいた方がよいと思われることばは、そのまま使う。ただし、そのことばの後に分かりやすい言い方での言い換え表現を付け加える
(4) カタカナ外来語はできるだけ使わない
(5) ローマ字はできるだけ使わない
(6) 擬音語や擬態語はできるだけ使わない
(7) 使用する漢字や漢字の使用量に注意し、漢字を使ったときはルビをふる
(8) 年月日、時間の表記は西暦と12時間表記にし、スラッシュは使わない
(9) 動詞を名詞化した表現は使わず、できるだけ動詞文にする
(10) 「おそらく」「たぶん」などの曖昧な表現は使わない
(11) 二重否定の表現は使わない(同上)

 このような「やさしい日本語」という視点は、さまざまな利用者を対象にする図書館サービスにも必要なものである。たとえば、図書館員のしいはら あやこ(椎原綾子)は「聴覚障害者に筆談は通じているのか?」という文章で、つぎのように「筆談のポイント」をまとめている。

・一つの文は短く簡潔に書く
・回りくどい表現や比喩的な表現、曖昧な表現は避け、具体的に書く
・二重否定は肯定にする
・ひらがなばかりで書かない
・分かりやすい言葉で書く
・読みやすい字を書く(しいはら2006:64)

 第一言語が日本手話であるろう者にとって、日本語は第二言語である。単純に「ろう者とは筆談すればいい」といえる状況にはない。そこで、たくさんの聴者が日本手話を学習し、「筆談のポイント」を認知する必要がある15。
 みみがきこえないと、漢字の意味はしっていても、よみがわからないことがある。そのため、一般に漢字で表記される表現は、漢字で表記しなければ通じにくい。とはいっても、きこえないひとにとって漢字がいつもわかりやすいというわけではない16。また、災害時の情報提供がラジオなどの音声メディアにかたよらないように、きちんと配慮しなければならない。やまだ はじめ(山田肇)が指摘するとおり、携帯電話のインターネット機能をつかった情報提供が必要である(やまだ2006:38-39)。
 このようにかんがえた場合、重要な点は「だれを対象にするか」によって「やさしい日本語」の内容も変化するということだ。
 識字のユニバーサルデザインという視点からいえば、やさしい日本語は「みんなにとってやさしい」を追求しながらも、こまかい点では選択の自由が保障されるほうが理想的である。そこで、わかちがきをする/しない、ふりがなをつける/つけない、ひらがなになおす/なおさない、漢字の使用率など、利用者が自分で選択できるようにする必要がある。そして、それを可能にするのがマルチメディア・デイジーであり、ウェブ上の文書である。
 現在、「やさしい日本語」や「やさしい にほんご」でウェブを検索すると、自治体が作成したウェブサイト(ホームページ)がいくつも表示される。もちろん、だれでもウェブにアクセスできる状況ではない。だがウェブで公開している情報は、印刷物にして行政の窓口でくばることもできる。できることを、できるところから実践していくことが重要である。
 「やさしい日本語」による情報提供は、災害時や音声だけのとりくみに限定することなく、だれもが利用できるようにする必要がある。そのためにも、すべての自治体にひろげていく必要がある。わかりやすい表現は、すべてのひとに必要なのである。

(320-324ページ。注は省略)


文献

  • さとう かずゆき(佐藤和之) 2009 「生活者としての外国人へ災害情報を伝えるとき―多言語か「やさしい日本語」か」『日本語学』28(6)、173-185
  • しいはら あやこ(椎原綾子) 2006 「聴覚障害者に筆談は通じているのか」『みんなの図書館』10月号、63-65
  • やまだ はじめ(山田肇) 2006 「総論:災害と情報アクセシビリティ」やまだ編『みんなの命を救う―災害と情報アクセシビリティNTT出版、1-46


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