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あべ・やすし。最近は ツイッターばー かきょーる。

『社会言語学』8号

 わたしが 参加している「社会言語学」刊行会から『社会言語学』8号が でました。3000円です。abe.yasusi@gmail.comまで どしどし ご注文ください。よろしく おねがいします。1号を のぞいて、バックナンバー(既刊号)も ございます。あわせて ご注文くださればと おもいます。


 それでは、かんたんに紹介します。

 なか論文は、『社会言語学』6号の 古賀文子(こが・あやこ)「「ことばのユニバーサルデザイン」序説―知的障害児・者をとりまく言語的諸問題の様相から」と、あべ・やすし「識字のユニバーサルデザインにむけて」の問題意識を ひきつぎ、英語教育という空間で、なにができるかを 論じたもの。「ことばが障壁となってひとびとの情報へのアクセスをさまたげる要因となっているのであれば、それを最大限に軽減すべきである」という問題意識から 議論を 出発している(2ページ)。

  • 原武史(かきはら・たけし)「少数言語復興政策は押しつけなのか―ガリシア語の事例」

 かきはら論文は、スペインの少数言語の ひとつである ガリシア語を とりあげている。2008年の スペイン総選挙において、ガリシア自治州における ガリシア語の復興政策が「論点の一つとなった」(25ページ)社会的背景と、その是非を 「社会言語地図調査」の結果を 参照しつつ分析している。

  • 寺尾智史(てらお・さとし)「弱小の少数言語・アラゴン語が問いかけるもの―生き残りの可能性とその意味をめぐって」

 てらお論文は、「スペインのアラゴン自治州北端部の地域」で 使用されているアラゴン語を とりあげ、「消滅していく言語」と みなされがちな「アラゴン語の生き残りかた」を 検討している。

  • なかの まき「左手書字をめぐる問題」

 なかの論文は、「左手で 文字を かくこと」についての社会言語学的な問題提起を している。あべ・やすし「てがき文字へのまなざし文字とからだの多様性をめぐって」『社会言語学』3号の 問題提起を、さらに くわしく論じた論考である。初校の段階では、あべ論文を まだ よんでいなかったとのことであり、両者が おなじく点字に言及している点など、興味ぶかく 感じた。共鳴しあう論文として、あべ論文と あわせて参照していただきたい。


 かんたんに目次をみると、


はじめに
1. 「左手利き」に関する先行研究
2. 左手書字の問題点
2.1 文字が書きにくいこと
2.2 「美しい」文字と心の問題
2.3 左手書字と教育
2.3.1 国語(書写・書道)教育の筆順について
2.3.2 日本語教育の筆順教育について
2.3.3 なんのための筆順か
3. 左手書字者と文字とのつきあい方
まとめ


となっている。あべ・やすし「漢字の筆順をめぐって―学校教育を批判する」で なかの論文を 一部 引用しているので、あわせて参照されたい。ことばの規範と からだの規範が 交差する領域で、どのような問題が生じているのかを、くわしく しることが できる。8号で もっとも おすすめできる論文だ。

  • 米勢治子(よねせ・なおこ)「地域日本語活動のあるべき姿を求めて―日本語ボランティア養成の実践から」

 よねせ論文は、日本語ボランティアとしての これまでの実践を ふりかえり、「地域日本語活動のあるべき姿」を 検討したものである。よねせは、つぎのように のべている。


多文化共生社会を構築するためには、日本人住民も学ぶことのできる相互学習の場であることが必要であり、自己表現型話題シラバスによる活動では、日本語そのものではなく、語られる内容それぞれに価値があり、だからこそ、学習者もボランティアも差異化されることなく、すべての人が対等な関係をつくることができるのである。
(84ページ)

  • ましこ・ひでのり「日本語ナショナリズムの典型としての漢字論―近年の俗流言語論点描(その5)」

 ましこ論文は、おもに「苗字」や「地名」など、「固有名詞の漢字」を めぐる 漢字擁護論を 批判的に検討している。「4. おわりに:疑似科学としての日本語論をこえて」とあるように、ましこは 漢字論や日本語論の おおくが、言語学的な知識に もとづかない俗論であるとし、それは ナショナリズムとして 排外的に機能していると指摘している。

  • チョン・ウン(あべ・やすし訳)「(ディス)コミュニケーションにおける対話的アプローチの重要性」

 チョン論文は、「ことばが通じず、コミュニケーションが むずかしい」とされる状況で、いかに対話的にコミュニケーションを とることが できるかを、さまざまな視点から 検討している。これも、6号の こが論文、そして 8号の なか論文と あわせて 参照されたい。


 『社会言語学』8号では 書評/紹介として 7冊の本を とりあげている。


 アメリカにおける ろう文化運動の重要な文献である『善意の仮面―聴能主義とろう文化の闘い』と イギリスの『ろう文化の歴史と展望』。ルビンジャーの労作である『日本人のリテラシー』。言語権の観点から重要な著作である『言語権の理論と実践』や『外国人の定住と日本語教育[増補版]』、『ポストコロニアル国家と言語』。そして、社会言語学的 視点から『敬語表現教育の方法』が 批判的に書評されている。『言語権の理論と実践』と『敬語表現教育の方法』では 著者による応答が 掲載されている。


 ことばや コミュニケーションの問題は、注目されやすいようにも感じられる。だが、たとえば社会学で どれほど 言語論や コミュニケーション論が 活発に 議論されているかといえば、それほどでもないように おもえる。そのなかで『社会言語学』誌は、地道に議論を かさねてきている。「社会言語学」刊行会の これまでの議論、そして これからの とりくみに ご注目くだされば うれしく おもいます。


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