うえの記事の つづきです。
エリック・ミルストーン/ティム・ラング『食料の世界地図』丸善という すばらしい本があります。この本で、「遺伝子組み換え作物」の問題が、つぎのように解説されています。
(42ページ)
バイオテクノロジー企業は、遺伝子組換え食料の研究による遺伝子と遺伝子組換え作物の利用を制限することによって、投資への見返りを確保しようとしている。企業は、利用の制限を次の二つの方法で行っている。
まず、企業は自社で発見した遺伝子と自社で栽培する遺伝子組換え作物と種子の特許を取得する。これによって、企業は20年間、“発明”への商業開発を独占することができ、使用者に特許使用料や許可料金を請求することができる。特許を受けた種子から作物を栽培している農家は再び種をまくために、種子を購入するにしても、種子を保存するにしても、特許使用料を支払わなければならない。これは農家の経費を押し上げ、貧しい農家を遺伝子組換え種子の使用から締め出すことになる。多くの人々が、自然に関する発見は発明として申請することはできないとして、異議を申し立てている。
次に、バイオテクノロジー企業は、遺伝子利用制限技術(GURTs)を探っている。遺伝子利用制限技術とは、その企業の種子を使用している農家が、種子あるいは植物を栽培するさいに、その使用に必要な付加的な化学物質を購入しなければならないようにするものである。
そもそも、遺伝子組み換え作物は、アメリカのような工業的な農業のためにある。『食料の世界地図』では、「遺伝子組換え作物は除草剤耐性大豆、昆虫耐性トウモロコシおよび綿花といった、おもに商業用作物を大規模に栽培している米国の農業システムのために開発された」ものだとされている。そのためアメリカと「同じような農業が行われているアルゼンチン、オーストラリア、カナダでは、作物管理がより容易になる遺伝子組換えは魅力的で、遺伝子組換え作物は商業用として制限された範囲内で栽培されている」(44ページ)。
その遺伝子組み換え作物が、第三世界に もちこまれ、どのようなことが生じているのか。今回は、遺伝子組み換え作物のなかでも「除草剤耐性植物」を とりあげてみたい。
ヴァンダナ・シヴァは、『食糧テロリズム』において「遺伝子工学の応用技術の71パーセントが除草剤耐性に関するもの」だとしている。シヴァは、モンサント社の商売方法を つぎのように紹介している。
(53ページ)
作物が除草剤耐性を持つように遺伝子を組み換えることで、企業側は農薬と種子の両方で売り上げを増大させている。…中略…ラウンドアップ耐性大豆は、モンサント社のラウンドアップという適用範囲の広い除草剤に耐性を持つように、遺伝子を組み換えられてきた。…中略…通常、大豆はいったん発芽してしまうと、繊細すぎて除草剤の散布はできない。しかし今では、遺伝子組み換え大豆と除草剤という二つの製品がしっかり一体化しているので、モンサント社はこの両方を更に売ることができる。
「だきあわせ商法」というのだろうか。遺伝子組み換え作物は、「通常の作物よりも高くつく」。それは「種子の値段が高く、技術料がかかる上に、農薬の使用料が増大するからである」。その結果、「農家は深刻な財政問題に突き当たらざるをえない」。シヴァは つぎのように つづけている。
(149-150ページ)
このようなコストの増大は農家を破産させ、自殺にさえ追い込みかねない。1998年のアンドラプラデシュ州の害虫災害に起因する交雑品種綿花の不作と、1ヘクタールあたり3万ルピー近くを殺虫剤に使ったことから生じた負債がもとでそれに続いた農民の自殺とは、私たちの農業システムがいかに脆弱化してきたのかを物語っている。
『食糧テロリズム』の訳者あとがきには、つぎのようにある。
(189ページ)
今年(2006年)インド政府は、遺伝子組み換えBt綿花(158ページ)不作の影響で負債を返済できなくなった農民の自殺が、1993年から2003年の間に10万人以上を数えたという、衝撃的な発表を行いました。10万人の自殺者という数字は只事ではありません。しかも、自殺した農民の多くは、農薬会社から借金をして購入した農薬をあおって自ら命を絶ったのです。
これが この世界でおこっている現実なのだ。
遺伝子組み換え作物の拡大が、多国籍企業の「カネもうけ」のためであるかぎり、生産者は くるしいおもいを するだけだ。はっきりしているではないか。遺伝子技術の大企業は、知的所有権を 主張することによって、自分たちの権利と利権だけは確保する。だが、生産者の生活は保障しない。生産者の生活には責任を とらない。
この現状を 無視したままで、遺伝子組み換え技術は すばらしいものだと主張するならば、そのひとには理念というものが まったく ないのだろう。そのひとたちを 信じてはならないはずなのだ。
はたして技術は中立でありうるか。そんなことは ありえない。技術は、だれのためにあるのか。どの方向を むいているのか。その方向性を ただすことができるのか。他人ごとではない。あなたは、どのように かんがえるのか。
最後に、ヴァンダナ・シヴァの ことばを かりたい。
これこそが「権利」と よぶに ふさわしいものだ。ちがうのでしょうか。
「私たちは種子を保存し生物多様性を確保する権利を取り返さなければならない。」(38ページ)
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追記(2月26日):
わたしは遺伝子くみかえ作物については、ほとんど予備知識がなく、それでも べんきょうしてみようということで、いくつか手もとにある本や雑誌をよんで かいたのが、最初の記事(遺伝子組み換え作物と知的所有権(生産者を 支配するもの)。 - hituziのブログじゃがー)でした。
しばらくたって、遺伝子組み換え作物、知的所有権、そして農薬。 - hituziのブログじゃがーを かきました。一方には遺伝子くみかえ作物に批判する議論があり、そして、そうした議論はニセ科学だという議論があるのは わかっていました。ただ、技術が いま現に どのように利用されているのかについても注目する必要があるように感じられました。とくに、「遺伝子組み換え作物、知的所有権、そして農薬。」の記事では、遺伝子くみかえ作物を推進する ひとたちは、多国籍企業がしていることについて、どのように おもっているのか、率直な意見が ききたいと おもいました。
わたしは遺伝子くみかえ作物は、工業的な大規模農業に適したものだと おもっていました。だから、世界のどこでも利用価値のあるものだとは いえないのではないかという先入観がありました。
そうしたわたしの疑問や先入観について、くわしく応答してくださる記事を トラックバックしていただきましたので、たいへん おそくなりましたが、追記して ご紹介します。
専門家の かたから、これだけ ていねいにご批判いただくことは、めったにないことで、こころから感謝しています。もちろん、感謝だけでなく、申し訳ない気もちにもなります。無理解な ひとが いなければ、専門家が苦労して何度も解説する必要はなくなるのですから。
ともかく、わたしの問題意識によりそうかたちで、論理的に議論されているので感動しました。感動している場合かと批判されましたら、あらためて 頭を さげるしかありませんけれども。ともかく、じっくり幻影随想: 「ビタミンAがなければ、リンゴを食べればいいじゃない」byヴァンダナ・シヴァを およみください。見識の ふかさに感銘をうけます。