だれもが 漢字という不安を 感じている。まちがったりしないか。わすれてしまうのではないか。その不安を、だれかを わらうことで解消することはできない。
たとえ だれかを わらっても、うちけせない不安に 苦笑しつづけることに なるのだ。「漢字」という キョーハクから 解放されよう。まず、それからだ。
漢字を よみまちがえた、かきまちがえた。そんなことで、だれかを わらうのは、もう やめましょう。まちがえたのが たとえ、権力者であっても。
だれかの まちがいを わらうのであれば、あなたは すでに権力だ。
漢字の知識で ひとを わらうのであれば、あなたは すでに権力の一部だ。
- あべ・やすし「漢字という障害」『ことば/権力/差別』三元社、131-163ページ。
159ページ。
文字のよみかきを学習するなかで、漢字にとくに愛着を感じなかったひとであれば、だれしも漢字という困難を経験してきたはずである。そして、なんらかの漢字がよめないこと、かけないことについて、はずかしい気もちにさせられたことなど、それぞれのひとに「漢字という障害」の記憶があるのではないか。漢字という障害がなければ、だれも漢字力の有無や大小におどらされ、不安をもつことはない。漢字という障害、漢字という不安をなくすために必要なのは、さらなる漢字教育なのだろうか。日本語には、2000字もの漢字がつかわれており、その漢字には訓よみと音よみがあり、画数もおおく複雑な字づらのものが大量にある。このような日本語表記は、だれでも自由につかいこなせる文字体系ではない。漢字という不安は個々人の常識不足がもたらすのではなく、社会がつくりあげているのである。だから、その社会こそを改善しなければならない。漢字弱者の解放は、漢字という不安を感じてきたすべてのひとにとっての解放でもあるのだ。
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