さて、2006年の本をとりあげようか。
2005年の本は「2005年の本あれこれ」、「2005年の本:おちばひろい編」でとりあげてあるので、ついでに みてください。
まず、小説。◆有川浩(ありかわ・ひろ)『図書館戦争』、『図書館内乱』メディアワークス。日本図書館協会による「図書館の自由に関する宣言」に着想をえた小説で、エンターテイメントに徹しながらも図書館の自由を論じている。『図書館戦争』が話題になりヒットしたおかげで、つづけて『図書館内乱』が出版された。ことしは『図書館危機』がでるようだ。
ほかにすぐれた小説としては、◆松岡圭祐(まつおか・けいすけ)『ブラッドタイプ』徳間書店。血液型性格判断の問題に臨床心理学者がいどむという内容。小説チックではあれ、たのしめる内容になっている。ただ、最後のほうで「日本人は単一の民族なのに、血液型なんかで人格を否定したり、相性を判断したりするなんて……。」という記述があって げんなりした(422ページ)。
◆佐倉智美(さくら・ともみ)『性同一性障害の社会学』現代書館。これほど いい本は なかなか みあたらない。佐倉は「性は多様である」という言明にたいして「多様であるなら性でなくてもよい」として、つぎのようにいう。「社会がその成員を分類するカテゴリーとしての〈性別〉なら、多様であるなら意味がない。人の数だけカテゴリーがあるのなら、それはカテゴリーではないのである」(63-64ページ)。この本は、はからずもユニバーサルデザインの思想に共鳴している。必読。
◆三浦耕吉郎(みうら・こうきちろう)編『構造的差別のソシオグラフィ―社会を書く/差別を解く』世界思想社。きちんと よんではいないが、帯にかかれた「人が差別するのではない。人の置かれた社会的立場性が差別をなさしめるのである」というフレーズにつきる。
◆植田晃次(うえだ・こうじ)/山下仁(やました・ひとし)編著『「共生」の内実-批判的社会言語学からの問いかけ』三元社。うつくしきことば「共生」をとりあげた社会言語学の論集。テーマを設定してこれだけの論集をあむのは、なかなか できないことだ。
◆デイヴィッド・ウォルマン『「左利き」は天才?-利き手をめぐる脳と進化の謎』日本経済新聞社。ひだりききのジャーナリストによるサイエンス・ノンフィクションといった おもむきの本。ぜひぜひ。
◆出版UD研究会 編『出版のユニバーサルデザインを考える-だれでも読める・楽しめる読書環境をつくるために』読書工房。たくさんのひとに よまれてほしい本。
ユニバーサルデザインといえば、◆『共生のための技術哲学-「ユニバーサルデザイン」という思想』という本が最近でた(2006年12月)。案外やすいね。はやく よみたい。
◆ましこ・ひでのり編著『ことば/権力/差別-言語権からみた情報弱者の解放』三元社。主張する社会言語学が よみたいひとは、ぜひ!
◆市野川保孝(いちのかわ・やすたか)『社会』岩波書店。社会とは、社会的とは なんなんだ?という疑問を再検討する偉大な本。
これと、◆赤川学(あかがわ・まなぶ)『構築主義を再構築する』勁草書房。あわせて よむと いいかも。具体的な研究だけでなく きちんと理論を整理している点がすばらしい。
社会構築主義で わたしが愛読しているのは、◆ガーゲン『あなたへの社会構成主義』ナカニシヤ出版。きのう よみかえしてたのだけど、いいよ この本は。『社会構成主義の理論と実践-関係性が現実をつくる』(税込み6090円)をやっぱり かおう…と おもっていたら『もう一つの社会心理学-社会行動学の転換に向けて』という本が2006年に復刊されてたのね。こっちは まー今度でいいや。