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映画『4人の食卓』とトラウマ理論

韓国にいたころに上映されていた『4人の食卓』をみた。ポスターとDVDなどのジャケットをみたうえでのイメージとは全然ちがうものだった。えぐいホラーではなくて心理サスペンス的。

わたしは『リング』で貞子(さだこ)がテレビ画面から はいでてくるシーンをみて爆笑してしまうような人間なので、『4人の食卓』でも、とくに感情が うごかされるわけでもなく、淡々と みていた。

チョン・ジヒョンさん扮するチョン・ヨンはナルコレプシーで霊感がある(と自分でおもっている)という設定。パク・シニャンさん扮するカン・ジョンウォンは7才以前の記憶がなく、ヨンによって過去のトラウマ的つらい記憶が よびおこされる…。だけど、ほんとにその「記憶」が真実だったのかは ぼかしてあるのが映画的サービスなのかな。おなじく韓国映画『カル』のほうが、謎だらけで、なおかつ どきどきわくわくさせられたなあといった印象。

まあ、ロフタスですよ。共著の『抑圧された記憶の神話―偽りの性的虐待の記憶をめぐって』。これ、けっこう ごついのでツンドクしてます…。よみやすい本では、『フロイト先生のウソ』、『〈傷つきやすい子ども〉という神話―トラウマを超えて』、『心は実験できるか』(8章「思い出された嘘―ロフタスの偽記憶実験」)などを参照してください。で、ですね。最近かったマイクル・シャーマー『なぜ人はニセ科学を信じるのかII―歪曲をたくらむ人々』ではロフタスが歴史修正主義者によって悪用されていることを指摘している。シャーマーは、ロフタス本人にもそれを直接しらせて、ロフタスはそれをきいてショックをうけていたようだ。とはいえ、悪用されようともロフタスの はたした功績は否定できるものではないし、問題なのは悪用する側だ。ロフタスの功績をジャーナリズムの観点、あるいは社会学的観点から論じた本などあると おもしろそうだな。とりあえずは、スレイターの『心は実験できるか』がそういう仕事をしてくれている。ありがたいことだ。

スレイターは、「ロフタスはおそらく、専門家からタレントへの一線を越えてしまった最近の心理学者の代表格である」という(301ページ)。いやはや、日本のタレント心理学者とは えらいレベルが ちがうな…と おもっちゃうのだが(笑)。無責任に みえざる「犯人」/容疑者を精神分析してしまうようなのと くらべてみるとね。ま、アメリカにも そういう心理学者は いるんだろうさ。そもそも抑圧された記憶(=カウンセラーが うえつける結果になった まちがった記憶)をめぐる虐待裁判は、アメリカで おこったことだしな。

ここで注意しないといけないのは、トラウマ理論すべてが虚構だというのではなくて、「大半のトラウマ経験者にとって、自分の身に起こったことはどうしても頭から離れない」のだということだ(『心は実験できるか』304ページ)。だから森茂起(もり・しげゆき)『トラウマの発見』や宮地尚子(みやじ・なおこ)『トラウマの医療人類学』などの著作まで頭から否定するようなことは さけないといけない。

それにしてもだ。フロイトの影響力って すごいやね。ニセ科学批判の重鎮であるガードナーの『インチキ科学の解読法』では「色あせたフロイト―夢理論という『夢物語』」という章でフロイト夢分析を批判してるので、これも興味のあるかたは、どうぞ。

ロフタスの翻訳としては『目撃証言』、『目撃者の証言』、『人間の記憶―認知心理学入門』という本もある。あわせて よんでみたいところだ。ロフタスの本は1冊も よんだことないんだけど(笑)。

ま、『〈傷つきやすい子ども〉という神話』のもくじにも あるとおり、「トラウマ理論は映画になるほど熟している」ということで。

グーグル:「ロフタス」
ウィキペディア「精神分析学」 / 「心的外傷」
リンク:「みんなのシネマレビュー:4人の食卓」 / なるこ会ナルコレプシーについてのサイト)