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あべ・やすし。最近は ツイッターばー かきょーる。

紹介『私の声が聞こえますか―認知症のある人とのコミュニケーションの可能性を探る』。

 マルコム・ゴールドスミス『私の声が聞こえますか―認知症のある人とのコミュニケーションの可能性を探る』という本を ゆっくり よんでいる。いい本だ。



 去年 かいた論文が「言語という障害―知的障害者を排除するもの」『社会言語学』9号というものだった。問題提起だけして、とくに めざすべき方向性を 具体的に しめすことはできなかった。ただ、ひとつ だいじな点として「『知的障害者にとっての言語』という問題にとどまることなく、知的障害者がおかれた社会環境そのものをといなおす視点が必要だ」と論じた(246ページ)。


 「言語能力」という ものさしで、判定され、選別され、排除される。それは、「言語という障害」を 批判しているだけで解決できることではない。社会的排除を なくすことを目標にしたい。


 「自活訓練」をして、そして施設からでるという方針は、社会のありかたを かえない。人権を、能力の問題に おしこめては いけないのだ。


 「できるから権利がある」というのでは、人権の普遍性の原則に反する。「できるようになれば 権利を 獲得できる」というのでは、能力主義でしかない。


 できようが、できまいが、権利はある。もし、個人が なにかが「できない」ことで権利が 制限されるなら、社会のありかたが おかしいのだ。「『できる/できない』を『自分の力』でできるかどうかで判断する視点こそが、障害を『個人の問題』におしこめるのだ」(244ページ)。


 『私の声が聞こえますか』の著者ゴールドスミスは、調査のために配布した質問表の最初の部分で、つぎのように説明している。

 認知症がある人へのサービスを改善し、サービスをより柔軟で、個別のニーズに対応したものにするためには、最初に、[認知症がある人の声を聞く、という]この前提を受け入れなければなりません。それは、認知症がある人は声を発しており、その声は聞き取れるのだということです。この声は多様な方法で表現されるかもしれませんが、この声を解釈し、手助けし、聞き取り、理解してそれに基づいて行動することは、すべてのサービス提供者の課題です。

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 『私の声が聞こえますか』の もくじを 紹介しておきます。

第1章 こだまはゆっくりと返ってくる
認知症とは何なのでしょうか。認知症があってもコミュニケーションをとることはどの程度可能なのでしょうか。


第2章 サービスについての意見を聞く
認知症がある人に、自分が利用しているサービスについての意見を聞くことは可能なのでしょうか。


第3章 誰かそこにいるの?
認知症への医学的アプローチと社会的アプローチの関係、そして認知症という経験について探求します。


第4章 人はそれぞれ異なる方法で影響を受ける
人の性格はそれぞれ異なるので、認知症による影響もまたそれぞれ異なります。認知症ということでひとくくりにしない、パーソンセンタードなケアが求められます。


第5章 コミュニケーションは可能
コミュニケーションの可能性を示す二つの長期的な事例を検討し、より良いコミュニケーションを可能にする方法を考察します。


第6章 力を奪うこと
認知症がある人は、人々の態度によって力を奪われ、無力感を学習してしまいます。しかし、多くの方法によって力を与えることができるのです。


第7章 時間とペースの感覚
認知症がある人とのコミュニケーションでは、ゆっくりと相手のペースに合わせる必要があります。時間のプレッシャーがある中でこれにどう対応するかを模索します。


第8章 ライフストーリーの価値
ライフストーリーを活用して認知症がある人の人生を理解することで、コミュニケーションを容易にします。


第9章 環境の影響
環境がコミュニケーションに影響を与えることを認識し、障害となるものを取り除きます。


第10章 非言語コミュニケーション
非言語コミュニケーションの重要性を認識し、スキンシップや音楽などの活用への試みを考察します。


第11章 挑戦的な行動(チャレンジング・ビヘイビア)
挑戦的な行動をコミュニケーションの試みとして捉え、理解し、対応することを学びます。


第12章 グループワーク
グループワークがコミュニケーションに与える効果が今後期待されています。


第13章 告知すべきか、せざるべきか―それが問題なのか
認知症の告知への賛成論と反対論、そして告知にまつわる諸問題を検討します。


第14章 内省的結論
各章のまとめと総括。


 第6章にある「認知症がある人は、人々の態度によって力を奪われ、無力感を学習してしまいます」という一文を、わすれないでいたいと おもいます。


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